2021年度の賃貸住宅供給が前年比で増加
2021年度(21年4月~22年3月)の賃貸住宅着工数が増えそうです。前年にあたる2020年度はコロナ禍の影響で大幅に減少しましたが、21年度は108.9%増の33万戸になるという予測を矢野経済研究所(東京)が2月22日発表しました。同研究所は「従来から資産活用を目的とした賃貸住宅へのニーズは底堅く、主要な賃貸住宅事業者による資産活用提案が継続して行われていることにより、2021年度貸家新設着工戸数は持ち直す」と予想しています。2021年はウッドショックと呼ばれた建築用木材の高騰がありましたが、この逆風をはねのけて賃貸住宅着工数が増加しそうなことに驚きの声も上がっています。
環境配慮型の賃貸住宅に注目
新築賃貸住宅の供給増だけでなく、新しい入居者ニーズを受けた新商品開発も進んでいます。賃貸住宅建築を通じて見えてくる、入居者トレンドを紹介します。まず、賃貸住宅開発の現場では、環境問題への取り組みが進んでいるようです。なかでも、生活による環境への影響を軽減するZEH(ゼッチ、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略)が注目されています。ZEHとは断熱性能を大幅に向上させた住宅です。大幅な省エネルギーを実現しながら再生可能エネルギーを使い、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとなることを目指しています。今年4月からは、住宅の性能をわかりやすく示すための住宅性能表示制度が改正され、住宅選びの参考にする人も増えてくると思われます。大手ハウスメーカーを中心に、ZEH仕様賃貸住宅の発売が相次いでいます。こうした「脱炭素化」は、賃貸住宅に限らず、あらゆる産業で世界的なトレンドになっています。「同じ賃貸住宅でも、環境への負荷軽減という目的や、社会貢献というビジョンを持つ賃貸住宅と、ただ建てるだけの賃貸住宅とでは、長期の賃貸経営の中で入居率にも差異が生じることにもなる可能性が高い」(矢野経済研究所)という予測も発表しています。もちろん断熱性能の高い住宅は寒暖差が少なく、光熱費も下がるとされており、入居者レベルで住みやすさが認知されれば、集客面での競争力も期待できます。今後は、このような商品開発が進んでいきそうです。
賃貸市場はコロナでどう変わるか
もう一つのトレンドはコロナ禍による生活様式の変化を捉えた賃貸住宅です。出社せず自宅で働く在宅ワークの定着は賃貸住宅供給にどんな影響を与えているのでしょうか?矢野経済研究所は「在宅ワークが定着し、都心部から郊外へ住み替える層も一定数みられる」といい、郊外へ転出が起こっていることを認めていますが、一方で、「都心部の賃貸住宅の入居率が低迷していることはない」としています。総務省統計によると在宅ワークの実施率が大企業が69.2%、中小企業が33.0%となっており、大企業の方が積極的です。大企業に勤める高所得層ほど郊外に住み替えるニーズが高くなっていることが予想されます。大手ハウスメーカーの一部では、狭い2~3帖のワークスペースを持つ賃貸住宅が開発されています。さらに、共働き夫婦の在宅ワークを意識して、2つのワークスペースを標準仕様とする商品もできており、快適に働ける賃貸住宅の商品化が始まっています。郊外でも大企業の共稼ぎ夫婦を狙った高級路線の賃貸開発が進むと思われます。同レポートでも「アッパー層の入居者を開拓するような動きが加速する見通し」「郊外の賃料価格帯も上昇に転じるエリアが出てきており、コロナ禍での新しい生活様式の定着とともに、賃貸住宅の住まい方にも転換期が訪れている」とまとめています。
eスポーツに特化した賃貸住宅
コロナ禍の若者の行動変化も影響を与えています。外出を制限された若者を中心に、自宅で楽しめるテレビ(コンピューター)ゲームの市場が拡大。その中でも人気のゲームはeスポーツと呼ばれて、プレイするだけでなく、観戦できる娯楽となっています。こうしたゲーム市場の拡大を受けて、eスポーツのイベントを主催している企業のバサラ(仙台市)などが、ゲーム専用の設備付き賃貸住宅を始めました。今後は全国の賃貸オーナー、管理会社にも提案していくそうです。
供給過多の賃貸住宅市場ですが、コロナによる変化を捉えた新築供給は進んでいます。既存の賃貸住宅においては、満室経営のための情報収集がこれまで以上に大切になっているようです。