契約業務の完全電子化はじまる ~すすむ賃貸のオンライン化~
賃貸の契約、更新、解約手続きなどは、不動産会社が貸主に代わって実施しますので、大家さんが直接に携わることは少ないと思います。実は本年5月から契約業務の完全電子化が始まります。電子化により手続きがオンラインで行えますので、業務の効率化や利便性の向上など、双方にメリットが多いと言われています。このオンライン化を借主がどのように捉えているのか、アンケートから考えてみます。
デジタル化の要望が高まる契約のやり取り
本年5月に宅地建物取引業法の改正が行われます。この改正で書面交付が必要だった契約書と重要事項説明書の電子化が全面解禁になります。これまでもインターネットなどで重要事項説明(IT重説)が可能でしたが、後日に押印した書面の交付が必要でした。
今回の改正で重説や契約書の公布を紙ではなく電子契約書だけで完結できるようになります。
不動産ポータルサイト「アットホーム」は、2020年4月以降に賃貸の契約に携わった借主を対象に、契約、更新、解約の際に実施された書類のオンライン化・電子サインの実態と、今後の希望について調査しました。不動産業界のオンラインの進み具合と借主の意識がよく分かる結果となっています。契約書類のやり取りはどんな方法で行ったか︖ 答えは対面が71.7%、郵送が16.9%で、メールやLINEなどを含むオンラインは11.4%でした。圧倒的に従来の対面と手渡しが多いことが分かりました。
更新時と解約時はどうだったか︖更新時の書類のやり取りは郵送が59.6%でトップでした。新規契約時に71.7%もあった対面は28.1%まで減りました。肝心のオンラインは5.4%と新規契約時の11.4%よりも低い結果になりました。
解約時の書面のやり取りは対面と郵送がほぼ並んでおり、それぞれ36.8%と33.1%となりました。興味深いのはオンラインが19.9%と、新規契約や更新に比べて大幅に増加している点です。中でも不動産会社のホームページから解約手続きをした人が9.6%もいました。解約受付は必要事項が少ないので借主もオンラインが使いやすいのかもしれません。
今後、借主は何を希望するのか︖
借主は今後、どのような方法を希望しているのか︖ という質問もありました。結果は新規契約をオンラインで希望する人が22.2%に増加しました。実態と比べてプラス10.8%と倍増です。更新ではオンライン希望が合計19.2%で13.0%の増加。また解約は27.2%で7.3%の増加となっています。オンラインを望む借主が増えているのは分かりますが、その希望者が半分を超えるのでは、という予想は外れました。まだニーズが顕在化していないのかもしれません。それを伺わせる回答が次の質問の中にあります。
手書きや対面を敬遠する借主が多い
賃貸住宅の借主の多くは不動産会社と契約などのやり取りに慣れていません。今回の調査では、「不動産会社とのやり取りで大変だったことは︖」についても質問しています。契約では、手続きのために不動産会社に足を運ぶことが大変だったという人が44.6%で1位、不動産会社の営業時間内に連絡することが難しく大変という人が31.9%、契約に関する書類のやり取りが大変という人が30.1%という結果になりました。この回答が電子化による契約業務のオンライン推進への潜在ニーズではないでしょうか。
更新では、書類を手書きで書くことが大変という人が29.8%で1位。名前や住所などはオンラインで楽に入力できるため、手書きが面倒と感じる人が3割近くもいることが分かりました。
解約では、不動産会社に連絡することを面倒に感じる人が31.6%で1位でした。まとめると、契約、更新、解約ともに紙でなくオンラインでやり取りすることや、不動産会社の営業時間にとらわれず自分の都合のよい時間に連絡したいという希望がにじんで見えていて、完全電子化によるオンライン推進を歓迎しているようです。
東京都内のある管理会社は「契約時に時間通りに来ない人や、電話を折り返してこない若い借主が増えていると感じています。また、手書きの書類に慣れていないから不備も多く、やり取りの手間が従業員にとっても負担になっています。電子化が解禁されてオンラインが可能になれば経営的にもプラスかもしれません」と語っています。
不動産の契約に限った話ではありませんが、こうした非接触や便利性を追求する消費者ニーズは、コロナが落ち着いても後戻りすることはありません。便利なオンライン化は進んでいくはずです。政府が旗振り役になり、行政手続きなども効率性の高いデジタル化(DX化)が進められています。賃貸経営においても出遅れないようにしたいものです。