管理スタッフからの現場レポート
入居率を高くできる原状回復工事とは?
平成10年頃の原状回復とは「貸室内を入居時の状態に戻すこと」であり、
費用の大半は借主さんが負担するものでした。
しかし同年3月に、当時の建設省から「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が発表され、
徐々に「通常使用による損耗は貸主負担、故意・過失による損耗は借主負担」という、現在の認識に変化した経緯があります。
しかし私たちは原状回復工事を、「貸主が負担しなれればならない」とネガティブに捉えるのではなく、
「次の入居者募集に向けて、早く、高く貸すための重要な手段」と考えています。
原状回復工事は「賃貸経営で稼ぐ収益の健全化」のために、上手に効率よく行う必要があるのです。
そこで今回は、「原状回復工事のあり方」についてレポートいたします。
年に何回か、賃貸管理スタッフが集まって、お互いのノウハウや経験を披露しあう、という会合が開かれます。
今回は「原状回復工事の失敗例」というテーマでしたので、いくつかをご紹介しましょう。
ケース①「クロスは壁だけでなく天井も」
入居5年で退去した部屋の原状回復工事を検討したとき、
壁クロスの張り替えは当然として、迷ったのが天井のクロスだった。
壁と同様に経年変化しているので張り替えを提案したが、
オーナー様の「目立たないから」という言葉に従ってしまった。
しかし工事が完了すると、新しい壁のクロスと、
経年変化した天井のクロスの差が際立って、余計に古く見えるように感じた。
そして案の定、内見のお客様に「天井が気になった」と言われてしまい、
この部屋を決めるのに数ヶ月の時間を要した。
いま思えば、オーナー様は「目立たないから張り替えない」と強く主張したのではなく、
「張り替えなくてもいいのではないか?」と尋ねたにすぎないので、プロとして強く提案すべきだった。
天井が綺麗になることで資産価値は向上するのだし、
数万円の経費カットと数ヶ月分の収入ロスは割に合わない結果となり、
オーナー様の収益を損ねたことを反省している。
ケース②「細かな部位の劣化を見過す」
原状回復工事のたびにクロスや畳は新しくなるが、
見過ごされて古いままになっているのが、木部の傷、コンセントやスイッチカバーの変色や劣化など。
築後10年を過ぎると、周りの壁や畳が新しくなることで余計に目立つこともある。
繁忙期のお客様は期限に迫られてお部屋を決めていくが、
閑散期のお客様は「良い部屋があったら引っ越そう」と考えているので、こういう細かな箇所もチェックされる。
それが原因で決めていただけなかったことがある。
ケース③「まだ壊れていないから」
ある原状回復工事で、15年を経過したエアコンの取り換えについて協議したところ、「まだ壊れていないから」
というオーナー様の一言で、クロスの張り替えだけで済ますことになり、まもなく入居が決まった。
しかし、暑くなったころ、そのエアコンが故障し、
入居中に取り換えることになったのだが、新しいエアコンはコンパクトなので、
クロスのはじが欠けてしまい、再度のクロス張り替え工事が必要になってしまった。
入居中の修繕工事は、期日と時間調整に手間が取られ、
家具などを汚さないための養生も必要になるので、空室時よりも割高になる。
オーナー様には、二重のクロス工事と割高な費用を負担させてしまうことになった。
これらの失敗例から私たちが学んだことは、
・壁や床以外の細かな部位の経年劣化にも気を配る
・経費判断は短期視点でなく長期視点で答えを出す
・原状回復とリフォーム工事を合わせることでコストカットの実現と重複工事を防ぐ
以上の3点です。これからの原状回復工事に「早く高く貸せるための手段」という目的を持たせることが重要です。
失敗を失敗で終わらせるのか、経験として活かせるのか?
これからは今まで以上に人、質で違いが表れてきます。
能力があるだけでは通用しません。スキルとモラルと協調性の融合が必要です。